電解液の機能を設計する:イオン溶媒和の化学

溶液中のイオンは複数個の溶媒分子に取り囲まれた集合体「イオン溶媒和クラスター」として存在し、このクラスターの構造/ダイナミクス/エネルギー特性がイオンの反応性を支配しています。
 本研究室では、イオンと溶媒分子の相互作用「溶媒和現象」をイオン反応の素過程と捉え、これを熱力学・構造化学に立脚して解明していくことを研究戦略上の最重要課題と位置付けています。溶媒和の分子論を通じて、電解質塩の溶解現象にはじまり、電極反応(イオンと電子の反応)や錯形成反応(イオンと配位子の反応)を統一的に理解し、用途に応じた機能を必要な分だけ付加するための設計指針を提案していきます。
 この「用途」の部分、具体的にはリチウムイオン電池などの蓄電デバイスを想定しています。溶液化学と電気化学の境界領域に身をおき、実用分野で求められる「機能」を適切に付加した「電解液」の開発を進めていきます。

電解液をゲルにする:強く柔らかいゲル電解質の創成

4分岐高分子であるTetra-poly(ethylene glycol), TetraPEGを網目として用いたハイドロゲルは、90%以上が水であるにも関わらず非常に優れた力学特性を示します。本研究室では最近、この多分岐高分子を機能性電解液(イオン液体、非水系電解液)中で効率よくゲル化する方法論を確立し、燃えない・イオン伝導性が高い・二酸化炭素をよく吸収する等、所望の機能を選択的に付加した高強度ゲル電解質を合成することに成功しました。ゲルネットワークとして用いる高分子は1〜5%と極めて低濃度なので、構成成分の99〜95%以上は電解液です。にも関わらず、人工関節に匹敵する高い機械的強度を示し、「高度な機能化を施した電解液」の性能をほぼそのままゲルに反映することができる点が大きな特長です。実際に、電気化学デバイス用のゲル電解質や二酸化炭素分離膜としての応用研究も進めており、従来材料にはない優れた特性を実証しつつあります。

分子間相互作用を制御する:イオン液体の物性-構造相関

イオン液体は強いクーロン相互作用が働くにも関わらず、分子性溶媒による溶媒和なしでイオン解離しており、従来までの”溶媒”では見られない特殊な反応場を形成しています。また、イオン液体の構成イオンの多くは分子設計の自由度が高く、イオン種の組み合わせを任意で選択できることから”デザイナーズ溶媒”とも呼ばれます。この構造デザイン性の高さは、イオン液体中の「分子間相互作用をデザインできる」ことを意味しており、反応場特性(イオン性・分子性、親水性・疎水性、均一性・不均一性)を自在に制御することが可能です。
 この反応場としての特性を規定する”イオン液体に特有な分子間相互作用”を熱力学・構造化学に立脚して調べ、それが様々な溶質種(金属イオンから高分子まで)の溶媒和や反応性とどのように相関しているのかを分子レベルで解明することを目的としています。